CERAHIVE®は、表面に規則正しく配置された多数の穴(マイクロウェル)により、均一なサイズの細胞塊を大量に作製することが可能です。細胞塊のサイズを均一にすることは、高い分化効率と再現性に寄与します。また、多孔質構造を利用してマイクロウェル内の細胞塊に培地を連続的に供給することで、分化を促進し誘導期間を短縮することが可能です。

機能・特徴

細胞塊の接着状態・細胞塊の回収
 マイクロウェル内の細胞塊は仮足によってマイクロウェル底面に接着していますが、結合組織を形成するほどの強固な接着ではありません。このため、ピペッティングの際に液流を直接当ててから吸う事で細胞塊を回収することが可能です。

細胞塊の接着状態

細胞塊の均一性
 CERAHIVE®に播種された細胞は個々のマイクロウェル内で細胞塊を形成するため、細胞塊のサイズ制御が可能です。細胞塊のサイズを制御して均一化することにより、幹細胞の分化効率や再現性の向上等の効果が得られます。さらに、創薬における毒性検査や薬理試験などの信頼性を向上することが出来ます。マイクロウェルのサイズ(径)は、80μm、180μm、250μm、500μm、1000μm等があり、多様なサイズの細胞塊が作製できます。

細胞塊の大量作製
 CERAHIVE®は表面に多数のマイクロウェルを有しているため、一度に大量の細胞塊を作製できます。例えば、標準形状(円形タイプ)で直径80μmのマイクロウェルの場合、約9000個の細胞塊が作製できます。
培養中の細胞観察
 培養中の細胞などの透明な試料の観察には通常は透過光式の顕微鏡を使用しますが、CERAHIVE®は不透明なため透明なウェルプレートのように透過光での観察は出来ません。ただし間葉系幹細胞等の一部の細胞では反射光(落射)式の顕微鏡により観察することは可能です。

培養中の間葉系幹細胞の顕微鏡写真

培地交換・潅流培養
 CERAHIVE®のマイクロウェル内の細胞塊はマイクロウェル底面に接着しているため、浮遊による培養のように培地交換によって細胞塊が移動することがありません。また、CERAHIVE®は、表面・内部共に100nm前後の微細な連通気孔を有しています。これにより、底面や側面からの培地の供給が可能です。
 さらに弊社では、CERAHIVE®の培地透過性を利用した簡易培養装置を開発しており、この装置を用いることで連続的に培地を供給する潅流培養を行うことが出来ます。これにより、生体内の環境と同様の圧力や培養液の流れなどを再現することが可能です。弊社の簡易培養装置は、コンパクトで、実験台の上で使用可能です。

材料特性

 CERAHIVE®は材質にセラミックを採用することでマイクロウェル形状と多孔質を同時に実現しています。CERAHIVE®の気孔は細孔径50~200nmの連通気孔で、培地は通過しますが細胞が通り抜けることはありません。また、耐熱性があるため250℃の乾熱滅菌をしています。
 セラミックの材質としては、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)、ハイドロキシアパタイトから選択可能です。これらは人工関節や人工歯根、人工骨に使われている生体親和性の材質です。このため、特殊なコーティングなどをせずに適度な接着を保ちながら球状の細胞塊を形成させることが可能です。さらにこれらの材質はそれぞれ細胞の接着性が異なるため、細胞の接着性に合わせて選ぶことが可能です。

技術解説

3次元培養:生体近似の培養環境
 通常の細胞培養プレートやシャーレ等での培養は平面的な2次元培養ですが、生体内の組織は実際には立体的な3次元構造をしています。このため立体的に培養することで、より生体に近い反応をすることが以前から知られていました。
 3次元培養は細胞間の刺激伝達が3次元的であり、細胞塊の内部と外部とで培地や薬剤の供給経路が異なるなど、生体に近い環境を再現することが出来ます。これらにより、肝細胞など2次元培養ではすぐに活性が低下してしまう細胞でも長期間にわたって活性を維持できたり、幹細胞から各種細胞への分化において効率を高くできたりするなどの効果が得られます。
 しかしながら、これまで2次元培養のために導入した評価装置や手法を3次元培養のために刷新する必要があること、2次元培養に比べて高コストであることから、広く採用されない状況が続いてきました。そうした中で近年の再生医療研究の活発化によって、生体に近い環境で培養することの重要性が増し、これに伴って3次元培養の研究も活発化してきました。また創薬においても、2次元培養による結果と動物実験による結果の違いが顕在化してきており、この分野でも注目を集め始めています。

2次元培養と3次元培養の概念図

細胞塊サイズ制御による効果
 3次元培養において細胞塊のサイズを制御することは非常に重要と考えられています。細胞塊のサイズを制御することで、中心部の細胞死を防げるだけでなく、薬効や毒性への応答を向上できることが知られています。また最近では、細胞塊サイズが分化の効率や再現性、幹細胞の未分化状態の維持にも大きく影響することが分かってきました。

①サイズ制御による分化効率の向上
 幹細胞を各種細胞へ分化誘導する際には、細胞塊のサイズが分化効率に大きく影響することが最近の研究から分かって来ています。CERAHIVE®は、マイクロウェル径によって細胞塊のサイズを制御することが可能なため、高い分化効率を実現することが可能です。
 一例として、CERAHIVE®による間葉系幹細胞から硝子軟骨細胞への分化誘導の結果を示します。膝などの関節の軟骨は硝子軟骨細胞で構成されているため、治療する際には間葉系幹細胞から硝子軟骨細胞に分化させる必要があります。しかしながら、従来の培養方法では硝子軟骨細胞の他に繊維軟骨細胞へ分化してしまうものが多くありました。これに対してCERAHIVE®を用いた分化誘導では、硝子軟骨細胞が豊富な状態であることが確認されています。下の写真は、CERAHIVE®で硝子軟骨細胞に分化誘導した細胞塊を回収して染色し、一般的に行われているペレット培養で分化誘導した細胞塊と比較した写真です。
(京都大学再生医科学研究所 田畑研究室との共同研究による:Tissue engineering Pert C (2013))

誘導軟骨組織の比較(サフラニンO-ファストグリーン染色)

②サイズ制御による再現性の向上
 細胞塊のサイズが異なると、薬剤や誘導因子に対する細胞の反応が変わってきます。このため再現性向上のためには、細胞塊サイズを均一にする必要があります。CERAHIVE®は、マイクロウェル径によって細胞塊のサイズを均一に制御することができ、再現性の向上に貢献することが出来ます。
 下の写真は弊社にてCERAHIVE®を用いて間葉系幹細胞から硝子軟骨細胞へ分化誘導した細胞塊ですが、サイズが均一に制御できていることが分かります。これを複数回実施して得られた細胞塊を観察した結果、硝子軟骨細胞が豊富な細胞塊へ再現性良く分化していることが確認されました。

写真 CERAHIVE®上の軟骨細胞塊

③サイズ制御による未分化維持
 再生医療等で幹細胞を大量に増やす際、他の細胞への分化を防止し未分化を維持したまま増殖させることは重要です。未分化の状態を維持するためには、3次元培養で細胞塊を適当なサイズに制御することが必要であることが最近分かってきました。
 CERAHIVE®は、マイクロウェル径によって細胞塊のサイズを制御することが可能であるため、未分化を維持した状態で幹細胞を培養することが出来ます。
 下の写真は、弊社にてヒトES細胞を15日間培養し、蛍光観察を行ったものです。マイクロウェル径200μmのCERAHIVE®で培養した細胞塊は15日間の培養でも未分化が維持されており、細胞塊サイズを制御することによる効果が確認されました。一方、2次元培養およびマイクロウェル径600μmのCERAHIVE®では未分化状態を維持できておらず、3次元培養で細胞塊サイズを制御することが未分化維持に有効であることが分かります。

ヒトES細胞の未分化状態比較(培養15日目)

潅流培養による分化促進
 栄養成分である培地が連続的に供給され老廃物が常に除去される潅流培養は、培養密度を高める手段として広く使われています。また、培地交換の手間が省け、培地交換に起因するばらつきを低減できるというメリットもあります。さらに、生体内のように常に液体が循環している環境を利用して分化促進などの研究にも使われるようになってきています。
 CERAHIVE®は、培地を通過させて連続的に流すことができるため、潅流培養を行うことが可能です。弊社ではCERAHIVE®を用いた簡易的な潅流培養装置の開発も行っております。
 一例として、間葉系幹細胞から軟骨細胞への誘導をかけた後、弊社の潅流培養装置で培養した結果を示します。本装置による培養では、装置を用いない培養に比べて軟骨細胞への分化が早く進んでいることが分かります(京都大学再生医科学研究所 田畑研究室との共同研究による)。

ヒトES細胞の未分化状態比較(培養15日目)

用語解説

細胞塊(cell cluster, cell aggregate)
 細胞が凝集して塊を形成したもの。細胞単独で存在するよりも生体に近い反応を示す。細胞間の相互作用により、効果的な分化や高い活性を示す。スフェロイド(spheroid)とも呼ぶが、ES細胞、iPS細胞の場合は特に胚葉体(embryoid body)と呼ぶ。
幹細胞(stem cell)
 自身と同じ細胞を作る自己複製能と様々な種類の細胞を作る分化能を持ち、分裂回数に制限がない細胞。発生過程での細胞供給や、組織を維持するために細胞を補充する役割を担っている。

 幹細胞は体の中に元から存在しているものと、人工的に作製されたものの2つに分けられる。体の中に元から存在している体性幹細胞(成体幹細胞、組織幹細胞)には、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞などがあり、分化できる細胞の種類が限定される。人工的に作製された幹細胞には、ES細胞、iPS細胞などの多能性幹細胞(万能細胞)があり、胎盤を除く全ての細胞に分化することが出来る。
ES細胞(embryonic stem cell)
 胚性幹細胞ともいう。受精卵の胚盤胞期の内部細胞塊より人工的に作製された多能性幹細胞であり、非常に高い多能性を示す。ES細胞は胚を壊して作製されるため、倫理的な側面が課題となっている。また再生医療に応用する場合、患者自身の細胞ではないため拒絶反応のリスクがある。自身の細胞の核を卵に移植して作製したクローンES細胞であれば拒絶反応の恐れはないが、倫理的な問題が解決されていないため実用化には至っていない。
iPS細胞(induced pluripotent stem cell)
 体細胞に特定の因子(遺伝子)を導入することによって作製した人工の多能性幹細胞。ES細胞に非常に近い性質を持ち、倫理的な問題がないことから再生医療への期待が高まっている。また患者由来のiPS細胞を作製することができるため、移植の際の拒絶反応のリスクが低いことに加えて、遺伝疾患の病態解明にも期待されている。
間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell,MSC)
 体性幹細胞の一つで、特に骨・脂肪・軟骨へ分化しやすい性質を持つ。間葉系幹細胞は、骨髄や脂肪、滑膜など様々な組織から分離できる。近年、これまで分化出来ないと考えられていた心筋や肝細胞などへの分化もできることが分かってきた。
硝子軟骨細胞(hyaline chondrocyte)
 軟骨細胞の一つで、関節などに存在する。コラーゲンやグルコサミノグリカンを豊富に含み、クッションの役割を果たす。成長期においては、硝子軟骨細胞が肥大化し、最終的に骨芽細胞と置き換わることで骨を形成していく。
繊維軟骨細胞(fibrous chondrocyte)
 軟骨細胞の一つで、椎間円板、恥骨結合、関節半月、関節円板などに存在する。繊維軟骨は、結合組織と軟骨の中間型と考えられており、硝子軟骨に比べて固い反面、衝撃吸収性や潤滑性は劣る。

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