THERMOSCATT®は1000℃以上の高温域において優れた断熱性能を持つ工業炉用断熱材です。現在工業炉用断熱材として広く用いられている耐火断熱レンガやファイバボードは、温度の上昇に伴って熱伝導率が増加するため、高温域では断熱性能が低下します。これに対して、THERMOSCATT®は熱伝導率の温度依存性が非常に小さいため、高温で優れた断熱性能を発揮します。これにより、各種工業炉の省エネルギー化や断熱層厚さの削減を図ることができます。

機能・特徴

断熱性能
従来の高温用断熱材(耐火断熱レンガやファイバボード)は、温度の上昇に伴って熱伝導率が増加するため、1000℃以上の高温域では断熱性能が低下します。これに対して、THERMOSCATT®は温度上昇による熱伝導率の増加がほとんどありません。このため、1500℃における熱伝導率は耐火断熱レンガやファイバボードの1/2程度であり、高温用断熱材として優れた断熱性能を示します。

熱伝導率の温度依存性

サイズ、形状
THERMOSCATT®はJIS規格・並型レンガサイズ(230×114×65mm)が標準となりますが、□300mm以上の板状品も現在開発中です。また、異形状品への対応も可能です。

材料特性

組成、密度、気孔率
THERMOSCATT®はスピネル(MgAl2O4)からなる気孔率75~80%の多孔質体です。密度は約0.8g/cm3と、耐火断熱レンガと同程度の値となります。
最高使用温度、再加熱収縮率
1500℃-12hの熱処理でも再加熱収縮率は0.1%程度であり、1500℃の温度に耐えることができます。また、より耐熱温度が高い仕様を現在開発中です。
圧縮強さ
圧縮強さは1.4MPaであり、耐火断熱レンガとファイバボードの中間的な値を示します。また、より高強度の仕様を現在開発中です。

技術解説

熱の伝達には(1)固体中を熱が移動する「固体伝熱」(2)気体が移動することによる「対流伝熱」(3)光による「輻射伝熱」の3種類が存在します。高い断熱性能を持つ断熱材とするためには、これら3種類の熱伝達をそれぞれ効果的に抑制させる必要がありますが、高温における熱の伝達は(3)の輻射伝熱が支配的となるため、特に輻射による熱の伝達を低減させることが重要になります。
THERMOSCATT®は多くのシングルミクロンの気孔とサブミクロンの微細粒からなる微細構造を有しています。この微細構造を高温においても維持させることにより、以下のメカニズムで高い断熱性能を実現しています。
(1)固体伝熱
高い気孔率によって固体中の伝熱経路を少なくすると共に、サブミクロンの微細粒からなる微細構造によって固体伝熱の担い手であるフォノンを粒界で散乱させることで固体伝熱を抑制しています。
(2)対流伝熱
シングルミクロンの気孔を多くすることにより、気体の移動を妨げることによって対流伝熱を抑制しています。
(3)輻射伝熱
高温域において輻射伝熱をもたらす光の波長と同程度の大きさであるシングルミクロンの気孔を多く有することで光の散乱効果を高め、輻射伝熱を抑制しています。

THERMOSCATT®の微細構造

THERMOSCATT®の細孔径分布

高断熱化のメカニズム

用途例

放散熱量の低減
断熱性能に優れるTHERMOSCATT®を適用することにより、従来と同じ断熱層厚さでも高い断熱を得ることが可能となり、工業炉の外壁温度や放散熱量の低下、投入エネルギー抑制による省エネルギー効果を得ることができます。

(1)耐火断熱レンガの代替として断熱材最内層にTHERMOSCATT®を設置した場合

(2)耐火断熱レンガの代替として断熱材第2層にTHERMOSCATT®を設置した場合

(3)ファイバボードの代替として断熱材最内層にTHERMOSCATT®を設置した場合

処理量の向上
断熱性能に優れるTHERMOSCATT®を使用することにより、従来に比べて薄い断熱層厚さで同等の断熱性能を得ることが可能となるため、工業炉の炉内容積を大きくすることで、処理量を向上させることができます。

ファイバボードの代替として断熱材最内層にTHERMOSCATT®を設置した場合

用語解説

スピネル
MgAl2O4の化学組成を持つ物質の名称。MgOとAl2O3の間で唯一安定的に存在する複合酸化物で、高い融点(2135℃)を持つ。
再加熱収縮率
断熱材に一定温度・時間の熱処理を与えて室温に戻した際に生じる、熱処理前後での寸法変化を百分率で表したもので、断熱材の耐熱性に関する指標の一つとなる。同様の特性は、残存線熱膨張収縮率として表示されることもある。
固体伝熱
固体を形成する原子やイオンは温度に応じた振動をしており、この振動(フォノン)が固体内部を伝わっていく現象を固体伝熱という。
対流伝熱
熱を持つ流体が移動することによって熱が伝わっていく現象を対流伝熱という。
輻射伝熱
絶対零度を除いて、あらゆる物質はその温度に応じた電磁波を放射しており、この電磁波によって熱が伝わっていく現象を輻射伝熱という。
フォノン
物質を形成する原子やイオンの温度に応じた熱振動による波動を量子化し、粒子として表したもの。

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